ホルモンへの影響


つわりは妊婦特有の症状ですが、私はもともと、毎月の生理の直前に嘔吐するというPMS(月経前症候群)の症状をしばしば経験していました。 たいてい胃の中が空のときに起きるため、胃液のような液が少し出るだけで、嘔吐する瞬間の2〜3分間が苦しいだけで、 直後に気分がすっきりして身体的な影響はほとんどなく、あまり気にしなくて済む症状のひとつでした。 それが変わったのは地下鉄サリン事件から1年ほど経った頃です。

トイレに駆け込んで、胃からこみあげてくる症状が始まると、なぜか足腰から力が抜けて立っていることができなくなりました。 崩れるように倒れこんでしまうため、腕の力だけで便器にかぶりついて体を支えることしかできません。 そしていつものように、少しだけ胃液を吐いて気分がよくなっても、足で立つことができないため、 はってトイレから出て台所まで進み、椅子やテーブルの足元に横になったまま、1時間前後、立てるようになるのを待つのが常でした。

この症状はいつも、朝の身支度を始めたときに突然起きるため、出かける時間になっても出かけられず、 大事な会議や約束に間に合わないなど、月に1回しか起きないとはいえ、日常生活への影響が大でした。 唐突に足腰が立たなくなる症状は毒ガス中毒後遺症の典型だと知ったのは朝日新聞の記事からです。 それまでは、毒ガス中毒のせいでこんな不思議なことが起きるものなのかと自分でも半信半疑でしたが、 北里研究所病院で中枢神経機能障害と診断されてから、たくさんの不可解な症状がようやく腑に落ちるようになりました。

PMSのひとつとして出てくる症状に記憶障害もありました。 PMSの症状がひどいときは、記憶が保たれるのは1時間程度になってしまいます。 映画の前半1時間は手に汗握りながら真剣に観ていても、後半になって突然、登場人物の顔も、 ストーリーもわからなくなって、映画の鑑賞を続けることができなくなりました。 それとは別に、聴覚過敏の症状もありました。 雑音が苦痛になるだけでなく、好きな音楽を聴くことも苦痛になったため、事件から10年ほどは、 部屋の中をほとんど無音にしていました。
PMSに伴って強まっていたこれらの症状はすべて閉経とともに軽快しました。